カラヤンとベルリンフィル研究ブログ

カラヤン、ただ一度のニューイヤー — 1987年、黄金のウィーンを指揮する

2025年11月27日 当サイトにはプロモーションが含まれます

1987年、カラヤンが生涯でただ一度指揮したウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート。 晩年とは思えない集中と気品、そしてウィーン独特のしなやかな音楽性が、美しい映像とともに蘇ります。 祝祭の夜に刻まれた、唯一無二のきらめきを紹介します。

カラヤン唯一のニューイヤー・コンサート

意外に思われるかもしれませんが、1987年がカラヤンにとってはじめてのウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでした。長年ベルリン・フィルと共にドイツ本流のレパートリーを築き上げてきたカラヤンが、ウィーン・フィルとともにヨハン&ヨーゼフ・シュトラウスを中心とした「ウィーンの香り」にどっぷり浸かった、きわめて貴重な映像です。

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ステージ上のカラヤンには、どこか「神のような」静かな威厳が漂いながらも、音楽が進むにつれて表情はどんどん柔らかくなり、ところどころで無邪気な仕草さえ見せます。ふだんの大交響曲やオペラとは一味違う、晩年のカラヤンが心から楽しんでいる姿を映像で味わえるのも、このニューイヤーコンサートの大きな魅力でしょう。

80歳目前のカラヤンがステージに立つ意味

このときのカラヤンは、まさに80歳目前。身体の不調やスケジュールの過密さなど、さまざまな事情を抱えながらも、ウィーン・フィルと共に新年のコンサートに登場したことには、やはり特別な意味があったように思われます。出演オファーの経緯ははっきりとはわかりませんが、「生きているうちに、どこかで一度はカラヤンとニューイヤーを」という願いが、ウィーン側にもカラヤン側にもあったのかもしれません。

実際の映像を見ていると、年齢を感じさせない集中力と、長年の経験に裏打ちされた安定感が同居しています。テンポを大きく動かすことはほとんどありませんが、フレーズの終わりごとにごく自然な「たゆみ」が生まれ、そのたびにウィーン・フィル特有のしなやかな歌心がふわりと立ちあがってきます。

ウィーン・フィルのシュトラウスが花開くひととき

プログラムは、ヨハン・シュトラウス II 世を中心に、兄弟のヨーゼフ、そして父ヨハン・シュトラウス I 世の作品を組み合わせた、まさにウィーン・フィルの「お家芸」ともいうべき内容です。喜歌劇の序曲から、優雅なワルツ、スパッと切れ味鋭いポルカまで、どの曲にもウィーンらしい洒脱さとほのかな哀愁が漂っています。

興味深いのは、カラヤンがこれらの軽やかな舞曲を、決して「軽く」扱っていないことです。あくまで作品として真面目に向き合いながら、そこにわずかなテンポの揺れやルバート、柔らかなクレッシェンドを織り込むことで、音楽を自然なダンスのリズムへと導いていきます。結果として、ひとつひとつのワルツやポルカが、安易な「お祭り騒ぎ」ではなく、品格と遊び心が共存する、大人の音楽として響いてくるのです。

キャスリーン・バトルとの共演――「春の声」が描く祝祭感

このコンサートを語るうえで、キャスリーン・バトルの存在は欠かせません。彼女が歌う「春の声」は、その艶やかな高音と軽やかなフレージングがまさに絶品で、ウィーン楽友協会大ホールの華やかな雰囲気と見事に溶け合っています。カラヤンは歌手を決して覆い隠さず、オーケストラを一歩引かせるようにして、ソプラノのラインを美しく浮かび上がらせています。

バトルの若々しい声と、晩年のカラヤンが描く悠然としたテンポ感とのコントラストは、どこか世代を超えた対話のようでもあります。映像では、歌い終えたバトルに向けるカラヤンの柔らかい笑みが印象的で、厳格なイメージの強いマエストロの、意外な一面を見ることができます。

レーザーディスクから配信の時代へ――映像の楽しみ方

手元の画像は、かつて発売されていたレーザーディスクのジャケットから撮影したものです。大きなジャケットに映えるカラヤンとウィーン・フィルの姿は、今見ても実に絵になります。LD 全盛期には、こうした映像を大画面テレビやプロジェクターでじっくり鑑賞する楽しみがありました。

その後、このニューイヤーコンサートはDVDやCDとしても発売され、現在では配信やサブスクでも聴けるようになりました。メディアの形は変わっても、ウィーン楽友協会大ホールの黄金の響きと、カラヤンとウィーン・フィルが織り成すシュトラウスの世界は、今なお新鮮な感動を与えてくれます。

他のニューイヤーとの違い――「カラヤンらしさ」が光る瞬間

ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートといえば、ボスコフスキーやマゼール、クライバー、アッバード、ムーティなど、個性豊かな指揮者たちの名演が思い浮かびます。そのなかにあって、カラヤンの1987年は、決して派手さで勝負しているわけではありません。

堂々とした構えと、ひとつひとつのフレーズを磨き上げるような丁寧さ、そしてふとした瞬間に現れるユーモア。このバランスこそが、「シンフォニックなカラヤン」と「ウィーン的な軽妙さ」が出会ったときに生まれた、唯一無二のニューイヤー・スタイルだと言えるでしょう。華やかなホールの映像だけでなく、さりげない仕草や視線の動きにまで注目して見てみると、新たな発見があるはずです。

1987年ニューイヤー・コンサート プログラム

作曲者タイトル
J. シュトラウス II 世喜歌劇「ジプシー男爵」序曲
ヨーゼフ・シュトラウスワルツ「天体の音楽」
J. シュトラウス II 世アンネン・ポルカ
ヨーゼフ・シュトラウスワルツ「うわごと」
J. シュトラウス II 世喜歌劇「こうもり」序曲
J. シュトラウス I 世アンネン・ポルカ
J. シュトラウス II 世ポルカ「観光列車」
J. シュトラウス II 世ピチカート・ポルカ
J. シュトラウス II 世皇帝円舞曲
J. シュトラウス II 世無窮動
J. シュトラウス II 世ポルカ「雷鳴と電光」
J. シュトラウス II 世ワルツ「春の声」
ヨーゼフ・シュトラウスポルカ「憂いもなく」
J. シュトラウス II 世ワルツ「美しく青きドナウ」
J. シュトラウス I 世ラデツキー行進曲

キャスリーン・バトル(ソプラノ)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン楽友協会大ホール

新年の華やかなひとときを飾るにふさわしいこの映像は、カラヤンのファンはもちろん、ウィーン・フィルのニューイヤーを愛するすべての方に一度は触れていただきたい名演です。

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