カラヤンとベルリンフィル研究ブログ

ベルリン・フィル「12人のチェリスト」──唯一無二の響きが生まれた日

2025年11月28日 当サイトにはプロモーションが含まれます

ベルリン・フィルの「12人のチェリスト」は、1972年の《賛歌》録音を契機に誕生した世界唯一のチェロ・アンサンブルです。深い響きと豊かな表現力、唯一無二の音色で、半世紀以上にわたり世界の聴衆を魅了し続けています。

ベルリン・フィル「12人のチェリスト」──世界唯一のチェロ・アンサンブルの誕生

「12人のチェリスト(Die 12 Cellisten der Berliner Philharmoniker)」は、 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のチェロ・セクションから1972年に誕生した、 世界でも類を見ないチェロ・アンサンブルです。 オーケストラの一部門が、そのまま独立した室内楽グループとして 国際的な名声を築いた例はほとんど存在せず、 その独自性と芸術性によって“ベルリン・フィルのもうひとつの顔”とまで称されます。

創立当初から、12本のチェロが織りなす特有の音色は、 深い低音の重厚さ、透明感ある高音、そして弦楽器としての柔らかさと歌心をあわせ持ち、 他のアンサンブルには決して真似のできない響きを生み出してきました。 その壮大で豊かな音世界は、まさに“チェロのオーケストラ”と呼ぶにふさわしいものです。

1980年代初めのメンバーであればこちらから検索できます。パートをチェロに指定してください。

1972年──《12本のチェロのための賛歌》からすべてが始まった

このアンサンブル誕生の中心にあったのは、 ユリウス・クレンゲルの代表作《12本のチェロのための賛歌(Hymnus)》の録音でした。 ベルリン・フィルのチェロ・セクションに課せられたこの録音は一種の実験でもあり、 当時の指揮者やスタッフにとっても未知の挑戦でした。

12本のチェロが集まった瞬間に生まれた“巨大な呼吸”のような音の波―― 低音から高音まで滑らかにつながる音域の広さ、 弦楽オーケストラのような厚み、 さらには人の声に近いチェロ特有の温かさ。

この録音の成功は、メンバー自身に強い衝撃を与えます。 「これは偶然生まれた響きではない。ひとつのアンサンブルとして成り立つはずだ」 という確信が共有され、活動が始まることとなりました。

この“賛歌”録音はのちにアンサンブルの象徴として語り継がれ、 現在でも原点として重要視されています。 クレンゲル作品は今もレパートリーの中心にあり、 彼らの精神的な出発点を示す存在となっています。

1973年──衝撃的な東京デビューと国際的飛躍

アンサンブルの本格的なデビューは、1973年の日本公演によって飾られました。 本拠地ベルリンではなく、東京での初リサイタルは異例ですが、 これには当時から非常に強かった日本とベルリン・フィルの結びつきが背景にあります。

当時、日本のクラシック音楽界は“カラヤンとベルリン・フィル”への熱狂に包まれていました。 そのツアーの中で行われた12人のチェリストの演奏会は、 日本の聴衆にとって未知の体験だったと言えるでしょう。

チェロだけとは思えない迫力ある響き、 高音部の透明な輝き、 複数のソロが重なり合うような複雑なアンサンブル構造、 そして深い沈黙すら音楽に変えてしまう集中力は、 聴衆を圧倒し、口コミで瞬く間に話題となりました。

この東京公演の成功は、アンサンブルの国際的評価を決定づけ、 以後、世界中のホールから招かれるようになりました。 アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど各地での公演を重ね、 “オーケストラが生み出した室内楽グループ”という独自の地位を確立していきます。

レパートリーの爆発的拡大──チェロの魅力をあらゆる方向へ

創設当初、12本のチェロのためのオリジナル作品はほとんどありませんでした。 しかし、アンサンブルは積極的に委嘱活動を展開し、 新作が次々と生まれていきます。 クセナキス、フランセ、ブラッハー、グバイドゥーリナ、ペルトといった 現代の一流作曲家たちが、“12本のチェロ”というユニークな編成に魅せられ、 彼らのための作品を提供しました。

また、編曲作品の分野でも彼らは革新的でした。 バッハ、モーツァルト、ブラームスなどのクラシック作品から、 タンゴ、シャンソン、ジャズ、映画音楽まで、 十二本のチェロはどんなジャンルでも独自の色彩を生み出します。

● 低音の荘厳さ ● 中音域の滑らかさと厚み ● 高音の歌心と透明感

この三つが重なり合うことで、 “チェロだけの合奏なのに、オーケストラと室内楽の両方の性格を持つ” という特異なサウンドが成立しました。

録音と名盤──12本のチェロが刻んだ黄金時代の音

12人のチェリストの録音は、1970年代から現在に至るまで膨大な数に上ります。 特に創設期に残されたLP《Vol.1》《Vol.2》は、 チェロという楽器の可能性を最大限に引き出した黄金期の証ともいえる名盤です。

深く重厚な低音、広がりある中音、光沢のある高音。 当時の録音技術を最大限活用した、粒立ちの良いアンサンブルサウンドは、 50年以上経った今でも色褪せることなく、 むしろ“古典”としての価値を増し続けています。

その後もEMIやTeldecなどのレーベルにより多くの作品が録音され、 新作委嘱の成果やコンサートレパートリーが世界に届けられています。 20世紀後半から21世紀にかけてのチェロ音楽の発展に 決定的な影響を与えた、といっても過言ではありません。

アンサンブルの美学──静寂と緊張、そして呼吸

「12人のチェリスト」の魅力は、単に音量や迫力にあるのではありません。 室内楽としての精密さと、オーケストラ的なスケールが両立している点が真の強みです。

12人が描く“呼吸”は極めてゆったりとしていて、 ひとつひとつのフレーズがまるで生き物のように有機的に変化します。 その中に、ベルリン・フィルの弦楽セクションがもつ伝統的な音の統一感が宿るため、 決してバラバラにならず、巨大でありながら自然な流れを保つのです。

また、静寂の扱いが極めて巧みで、 音のない瞬間ですら緊張感が途切れず、 まるで“音の彫刻”のような時間が流れます。 これこそが、世界でも唯一無二のアンサンブル芸術と言われる理由です。

継承される精神──初代の意思は今も生きている

創設から50年以上、メンバーは世代交代を重ねてきましたが、 初代が築いた精神は今も変わらず受け継がれています。

● 12人がひとつの有機的な身体のように呼吸すること ● ジャンルを越えた柔軟な姿勢 ● ベルリン・フィルの伝統ある弦の響き ● チェロという楽器の可能性を世界に示し続ける意欲

これらは、現在のメンバーにも確かに脈々と継承されています。 12人のチェリストは、単なる“名物アンサンブル”ではなく、 世界のチェロ文化そのものの発展に寄与する存在となっています。

おわりに──12本のチェロが描く永遠の響き

1972年の一度の録音から始まった「12人のチェリスト」は、 半世紀以上を経て、世界的なアンサンブルへと成長しました。

チェロという楽器の持つ美しさ、 奥深さ、 そして人間的な温かさを、 これほど多彩に、そして雄大に表現できるアンサンブルは他にありません。

12本のチェロが作る唯一無二の音世界は、 これからも世界中の聴衆を魅了し続けるでしょう。

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